2013年2月10日日曜日

凶器が走る道②



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(雲堤 シベリア上空)
猫を埋めた場所を間違って掘り起こさないように、球根を植えようと買いに行くと、立春を過ぎたこんな時期は、チューリップもムスカリもすでに芽を出している苗が売られていました。
まだまだ厳しい寒さが続くので、なるべく芽が出ていないポット苗を選びました。


 そういえば、十数年前の同じ季節、北海道の霧多布湿原近くでも、凶器の走る道を歩いたことがありました。
湿原の果てを点々と移動するエゾシカの群れにうっとりしながら、早朝の眺めに満足した私は、徒歩で2時間ほどかかる鉄道の駅へ歩きました。
 2月の初旬、昼でも氷点下の道路は、雪で出来た道のように白く凍りついています。
 うっかり樹氷などを見上げながら歩いていたら派手に転んだので、慎重に路面に目を落として進んでいくと、白い道に大量にこげ茶の毛が散らばっていました。目を上げて前方を見ると、とてつもなく大きな体の鹿が路面に横たわり、足をバタバタと動かしていたのです。
鹿のわき腹には、赤い血が楕円形ににじんでいました。

 呆然としてしまいました。車に跳ねられた野生の鹿を至近距離で見たのはもちろん初めてだし、鹿も、私という人間が近づいたことで白目をむいて暴れているのです。
携帯電話もその頃持っていません。公衆電話はおそらく駅までないはずでした。


 そんな時、有難いことに軽トラックに乗った地元の方が通りかかったのです。
何とか助けてあげられないか相談すると、返事は一言。
「昼前には道路の見回りがくるから、そのときに片付けてもらえるだろう。」
「片付ける?助けるではなく?」
走り去ったトラックを見ながら、私は思い出しました。鹿は、彼らに害獣と呼ばれているのです。鹿は、一歩も近づくなといわんばかりに首をもたげて私をにらみます。
 私は歩き出しました。ものすごい早足で歩きました。鉄道の駅舎が遠くに見え、電話ボックスにかけこんだのは、傷ついた鹿を見てから1時間半後。警察から野生動物保護管理をしている方に電話をしてもらい、地図を見ながら場所を説明し終えたのは、2時間後でした。


「もう、手遅れだったかもしれない。」
とても気が重かったのですが、結果を聞かなくては無責任ですから電話をかけました。
「あの後、現場に行ったら鹿の姿は無く、斜面に向かって足跡がありました。出血もほとんど無かったようですから、脳震盪と運よく軽い傷ですみ、自力で立ち直ったのでは。」
と返事をもらえました。
「良かった…。」と思いましたが、必死に森へ帰ったあの鹿が、元気に何も無かったように暮らせたかどうかは疑問です。
そして、白い道には今もあのような事故がたくさん起きているのでしょう。



 今思い返しても、目の奥がキンと冷たくなる出来事です。




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